yuhr さんのヨミメモ

『売笑三千年史』(中山太郎) by yuhr


土佐国高岡郡津野山郷北川村の太う古味と称する寒村の土俗を挙ぐることができる。同村は山中の小部落で二十余戸しかないが、村民は江戸期の末葉なる文久年間までは、世間でいうところの結婚を知らず、ただ少壮の男子が夜間婦女の家に行き宿泊するのみで、もとより一定したる夫婦というものはかつてなく、今夜と明夜の夫は異なり、前晩と翌晩の妻は変わるという有様であった。それゆえに女子を持てる家には相続人あるも、男子を持てる家には相続人とてなく、一村二十余戸の民家はことごとく親戚なるか他人なるか、ほとんど区別もつかぬような生活を続けてきたのである。

売笑三千年史
中山太郎
出版社: 筑摩書房   出版日: 2013-07-10   ページ数: 720