yuhr さんのヨミメモ

『なにもない空間』(ピーター・ブルック) by yuhr

なにもない空間
ピーター・ブルック
出版社: 晶文社   出版日: 1971-01-01   ページ数: 223

どこでもいい、なにもない空間——それを指して、わたしは裸の舞台と呼ぼう。ひとりの人間がこのなにもない空間を歩いて横切る、もうひとりの人間がそれを見つめる——演劇行為が成り立つためには、これだけで足りるはずだ。
ひとつの上演方法が定まり、そして繰返されるのがふつうである。しかもなるべく正確に繰返されなければならない。しかしそれが定まってしまったその日から、目に見えない何かが死にはじめるのである。
演劇においては、ひとたび生まれたかたちはすべて死すべき運命をもつ。すべてのかたちはあらたな受胎を繰り返さなければならない。
演劇の媒体は血肉をそなえた肉体
それが完璧だったのは、ぎこちない自意識にわずらわされたり、自分の声の抑揚がおかしくないかどうかと思案したり、そんな余分な関心を彼がまったくもちあわせていなかったからである。聴衆の側には、彼が肌で感じていたとおり、聞こうという気持があったし、彼の側には彼らに聞いてもらおうという気持があった。そこで、台詞の中のイメージはおのずからあるべき位置を見出し、それが彼の声を導いて、無意識のうちに適切な強さと高さを発見させたのである。
いまや聴衆の精神的集中が彼を導きはじめた。
それはただ、ばらばらの断片として存在するだけである。
〈演出家に身をゆだねる〉というお定まりの導入部はすんだ、ところが、さてどう努力しても、うつろな内面の外側に固着してしまっている自分自身のイメージを、一瞬の間といえども、かなぐり捨てることができない、かわいそうなくらいにそれができない――
ただ彼女はそれを舌たらずの言葉でしか表現できない。